「なにより囲碁は楽しいものだって、その気持ちを忘れてほしくないんだよね」
自分で言って、ハッと気がついた。その気持ちこそ、私はずっと忘れていたんじゃない?
そして、ずっと触れずにいた囲碁をもう一度はじめるきっかけをくれたのは、他の誰でもない、拓海だ。
「その気持ちを忘れていたのは私の方だね。囲碁の楽しさを思い出させてくれたのは拓海だ」
「俺が?」
「そう。拓海が囲碁を教えてって言ってくれて、一緒に対局するようになって、ワクワクする気持ちを思い出させてくれたんだよ」
そう言いながら、拓海を好きだという気持ちが胸の中に溢れてくる。
私が一人で悩んでいても、いつもそれとなく察して、そっと背中を押してくれる。
拓海ったら、こんなに好きにさせるなんて。こんなんじゃ、いつかは離れなきゃいけないってわかっていても、離れられないよ……。
「俺と勝負すれば、毎回アイスもついてくるしな」
私の気持ちなんてまったく想像していないだろう拓海が、そんなことを言って私を笑わせる。
「……ごめんね、そこを譲る気はまったくないから」
こぼれそうになった涙をぐっと押し込めて私が冗談めかして言うと、拓海は声を上げて笑った。