車が大通りから狭い道に入ると、ツタの這う古びたマンションの地下に入った。
割りと高さのあるマンションなのに暗さしか感じない。
『眠れる森の美女』に出てくるお城のようだ。
結局私のスマホはハン君が持ったままだ。
もうどう足掻いても私は凌久という人物に会わなければならない。
私は総長だ。例え小さくても気を確かに持たなければ。。
泣きたい気持ちをぐっと堪える。
車が停車すると、
私は震える両足に神経を集中させた。
恰好良く車を降りるイメージを頭に思い浮かべながら颯爽とシートベルトを外そうとする。
でも固くてなかなか外れない。
ハン君がそれを見てすぐに外してくれた。
優しいのか優しくないのか分からないハン君に、お礼も言わずに車のドアを開ける。
でもハン君は座ったまま私を無理に膝に乗せるとそのままハン君側のドアから私を抱いて車を降りた。
私のイメージトレーニングは全て無駄だったらしい。
「足、震えてるの?
庭でも泣いてたし、
さっきも「こわい」って言ってたけど、
伊東さんでも怖がることあるんだね。」
突然来た不審者に胸ぐら掴まれてナイフ出されたら誰だって泣くに決まってるし、
動けない車内であんなことされたら誰だって怖いに決まってる!
当たり前のことじゃないか。
でも私があんな風に「こわい」なんて口にしたのは初めてかもしれない。
こんなに呆気なく自分の怖がる姿を披露し、"当たり前"をずっと封印してきた今までの私は一体何だったのだろう。



