本編バレンタインのエピソード



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 いつから君を、一人の女の子として意識するようになったのかーー。
 それは自分でもわからない。

 妹の友達。俺にとって、彼女は第二の妹のような存在だった。
 ……確かにそう、思っていた。

 でもーー気が付けば好きになっていた。


 今までの経験上から、俺は誰と付き合ってもどうしても花音の事を優先させてしまうはず。……これは、この先も一生変わらないと思う。

 小さくてか弱いくせに、それでいてどこか無鉄砲で……。その無邪気さが酷く不安で仕方がないのだ。
 変な男に騙されやしないか、危険な目に遭ってやいないかなど、いつも心配で目が離せない。

 ーーおまけに、彼氏はあの響ときている。

 これでも一応、響の事は信用している。
 あいつは絶対に花音を傷付けるような事はしないだろうーーそれだけは、不思議と確信を持って言える。
 だけどーー


(響は少し……。いや、だいぶ変なやつだから……)


 やっぱり、花音の事が心配で放っておく事ができないのだ。

 だからーー俺は自分の気持ちに蓋をした。
 彼女を一番に優先してあげられないなら、自分から告白なんてするもんじゃない。そう、自分に言い聞かせていた。

 ーー何より、失うのが怖かったから。
 大切にできずに失ってしまうぐらいなら、この気持ちは一生自分の胸に秘めておこう。そう、思っていたんだーー。




「ーーこれ、ね……。っ、……本命だから」

「…………。え?」


 目の前に差し出された綺麗に包装されたチョコを見つめながら、思いもよらない突然の出来事に一瞬固まる。


「…………っ。俺は……、花音のことが一番に優先なんだ……」


 無意識に、そんな言葉が小さくポツリと溢れる。
 それを聞いた彩奈は一瞬悲しそうな顔を見せると、俺に向けて小さく微笑んでから差し出した手を引っ込めた。


「うん……っ、そっか。そうだよね……やっぱり迷惑だよね、ごめんね……っ。今のは忘れて」



 ーーー!



 立ち去ろうとする彩奈の手をグイッと掴むと、驚いた顔をする彩奈が俺を見上げた。


「……っ、いや……だから、そうじゃなくて……っ。ーー俺は、彩奈の事が好きなんだ。でも……っ、やっぱり花音の事を優先してしまうと思う。だから……彩奈を悲しませて失いたくない」


 彩奈の言動に触発された俺は、告げるはずではなかった胸の内を(さら)け出した。
 すると、涙を浮かべた瞳でニッコリと微笑んだ彩奈。




「なんだ……そんな事。ーー何年、一緒にいると思ってるの?」




 そう言って微笑んだ彩奈はとても綺麗でーー。

 まるで時間(とき)が止まったかのような錯覚を覚えた俺は、瞳を逸らすこともできないまま、ただ、目の前の彼女に見惚れてしまったんだーー。






 ーー完ーー