「ううん、こっちは大丈夫だよ。もうすぐ切り終わるから」
「わかりました。では先に行ってますね」
そう言っていったんキッチンから出た琴乃が舞い戻る。
「晴臣さんも一慶さんも、すっごく素敵ですねー。あんなおふたりと幼馴染なんてうらやましすぎます」
琴乃は胸の前で両手を組み、見悶えするかのように体を揺らした。
「ではお願いしますね、美紅さん」
今度こそ本当にキッチンから出ていく琴乃を目だけで見送り、包丁を握る手を止める。
「幼馴染だからいいってものでもないのにな」
ついそんなひとり言が漏れた。
幼馴染は所詮、幼馴染。その殻を破るのは難しい。
現に女性にモテる一慶ですら、佐和子の気持ちを掴めないまま失恋したのだ。



