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我に返った一慶は、美紅の立ち去ったリビングでひとり呆然としていた。


「……俺はなにやってんだよ」


苦々しく呟いた声が、静かな部屋にやけに響く。

美紅欲しさに、彼女の気持ちも顧みずにキスしたばかりか、我を忘れて体まで奪おうとした自分が情けない。人として最悪なうえに最低だ。
拳を握りしめると、手のひらに爪が強く食い込む。

なにが『俺にしておけ』だ。あんな野蛮なことをした自分に美紅が振り向くはずもないだろう。美紅が好きなのは、いつだって紳士な晴臣だ。

晴臣なら絶対にしない暴挙を働いた一慶は、完全に美紅の気持ちを掴み損ねたに違いない。
深く重いため息をつき、ソファに体を投げ出した。

鉛のような心は、一慶の体も沈ませる。

完全に美紅に嫌われてしまった。自業自得だ。
いっそこのままソファの一部と化して、自分の存在をなくしたい。一慶はそんな思いに駆られた。