一角にあるデスクから顔を上げる。


「おねえちゃん、早いね」
「なんだか早く目が覚めちゃってね。幸司くんが昨日から一緒だから、なんかこうリズムが狂うっていうかね」


佐和子は苦笑いだ。

昨日は美紅と入れ違いで幸司がやって来て、佐和子との生活をバトンタッチ。幸せな新生活がスタートしたはずだが、長年のリズムの中に異質なものが混ざると、慣れるには時間が必要だろう。

それは美紅も同じ。恋人同士の佐和子と幸司でさえそうなのだから、再燃した片想いを密かに抱えている美紅にとっては大きな変化だ。ある意味、試練といってもいいかもしれない。
絶対に報われない恋心をどうしたら昇華させられるのかと、べつの悩みまで発生して頭が痛かった。


クリエーニュでの美紅の立場は佐和子に続きナンバー2。オーナーであり社長でもある佐和子の妹というアドバンテージはあるが、美紅自身の仕事ぶりから文句を言う者は誰ひとりいない。

売上管理やシフト管理はもちろん、最近は仕入れにも携わるようになり佐和子の信頼も厚い。
美紅が奥の倉庫でたった今入荷したばかりの冬物の検品をしていると、ふたつ年下の紀美加(きみか)が顔を覗かせた。