その言葉があったからこそ、美紅は安心して佐和子と一緒に暮らしてきた。彼氏はおろか恋もまともに経験していないため、美紅自身も結婚しないだろう――いや、できないだろうと思ってきたから。ずっとふたりで暮らしていけばいいやと。

その佐和子が結婚すると言う。言葉のニュアンスから、もう一緒には住めないとも言う。


幸司(こうじ)くんにプロポーズされたの」


佐和子よりふたつ年上の幸司はIT企業の社長である。美紅も何度か会っているが、とても気さくで優しい男だ。

佐和子が頬をほんのりと染め、はにかみながら俯く。その顔はこれまで見たことがないくらいに幸せそうだった。
一生結婚しないと宣言していた彼女とは思えないほどの乙女の表情は、妹の美紅が思わずぎゅっと抱きしめたくなるくらいにかわいい。


「そっかぁ。おねえちゃん、おめでとう」


うれしそうに告白する佐和子の結婚に異論はない。これまでさんざん世話になってきたのだ。美紅が祝福せずして、誰がするというのか。
お姉ちゃん大好きっ子の美紅にとって同居解消に寂しさを感じるのは事実だが、佐和子の幸せはなによりもうれしい。