「おい親父」


「なんだァ糞ガキ」


タクシーの後部座席に二人、帰る家は違うのに同じ車に乗るのは久しぶりに親子二人だけののコミュニケーションを取るため。


「咲名のこと、また前みてーに変に引きずり込もうとしてんなら怒るかんな」


「お前に怒られたってどってこたァねーし。あいつの方がよっぽと怖えぇなァ」


すぐ海渡っちまうし、といえば確かにそうかと翼も笑う。


前みたいに、というのが何を指すのかはとりあえず置いておいて。


それが父親を警戒するきっかけになった咲名と、夢を見つけるきっかけになった翼。


悪いようにはしないのは一番わかってる翼だけど。


「親父が咲名を怒らせるとせっかく帰ってきたのにまた離れ離れだもんなァ」


「ちっ…生意気言いやがって」


翼にもしっかりと受け継がれる父親譲りの口調。
日頃は意識して、特に同じ研修生の前では出ないように気を付けてるけれど。


お酒の進んだあとにそんなことは気にしてられない。


兄妹を感じさせるそんな二人と、仲の良さ。


お互いがお互いを信頼して認め合う二人、出来ることなら二人が同じステージに立つことを願う社長であり父親だけど。


「俺なんかより咲名の方がよっぽど何でも出来んのに、勿体ねーと思う気持ちは分かるぜ」


「はは、俺にとっちゃお前らなんてどんぐりの背比べだ、どっちもどっちだなァ」


本心でもあるこの言葉、可愛さで言えば良い意味での背比べ。


同じくらい、未来に期待して。


同じくらい、成功を願って。


同じくらい、手元に置いておきたい可愛い子供である。


「ふぁ〜…着いたら起こしてな」


会社では社長と所属タレントの位置関係を厳守する翼も、一歩出れば親に甘える息子で。


小さく響く舌打ちも気にせず束の間の睡眠。


所属させる前から色んな事をやらせてたのは翼も同じくだけれど、この世界に入った歴で言えばまだまだ、同じ位置にいる研修生の中では浅い方で。


経験者としての優遇はあっても息子としてではないことを周りに示すには、翼の頑張り次第だと。


日々成長を見せる息子の、見せない努力が、成果として現れるのが楽しくて仕方ない。