扱いはよく分かってるおかげで昔からこう、内緒話なんてそれこそ腐る程されて来たし、律儀に守っても来た。


『地元でさ、仲間とさ…ちょっと大きな事計画してたの。けどまとまったお金がいるってなって。
そんなの頼めばいくらでも出してくれる人はいたしそれを皆も知ってた』


「頼ってねー、だろ」


『そー、それじゃ意味がないって。
みんなで頑張ってバイトしてお金貯めて…自分達で稼いだお金で頑張らなきゃ意味がないって。


私その稼いだお金、ってのを履き違えててさ』


嫌な予感と言うか、なんとなく検討はついたけど大人しく続きを聞けば。


『まぁ…例のギャラとやらをだね、自分で稼いだお金って胸張って渡したんだよ。けど額も額だし手段がもう規格外だって。


言われて気付いた私はやっぱり普通じゃないねェ』


カシっと聞こえた軽快な音、煙草やめろって言ったのになんてライターの音を聞きながらぼんやり思ったけれど。


《普通じゃない》って聞いたの、久しぶりだなって。
色んな気持ちが勝手に想像ついてしまって、見えない電話の先で苦笑い。


「お前にとっては別にって事が、世間的にズレてる事は絶対的に多い、けどそれって悪い事かって考えればそうでもねーじゃん。お前がさ、何でそんなに昔から《普通》に拘るのか俺には分かんねーけど」


彼は彼で世間とのギャップに生きづらさを感じるくらいには、浮世離れした世界に生きてきた。


今の環境は彼にとって《救われた事》であるから、その世界から逃げようとする気持ちは分かるけれど、理由までは分からなくて。


「普通に生きればいいじゃん、息のしやすい環境に適応する事は逃げるのとは違う。魚がエラ呼吸しか出来ない事を誰が責める?」


『それ昔から言うけど両生類だってしっかりいる訳じゃん、進化を遂げてだねぇ』


「進化、してねーじゃん」


何もしてないのに何を言ってる?と言えば、今度こそ黙ってしまった。