そんな伝説を作った咲名に《楽しい》と思わせる事が《出来る》、そう思わせれる程の人間が。


こんな小さな環境にいるなんて。


願って、でも叶わなかった父親だけど。


諦めてはいない、だからこそ今回の帰省に賭けるつもりで多少の無茶は許すと、照樹にも協力を求めた。


すんなり帰省した事に拍子抜けはしたものの、ケバ嬢三人組に即見切りをつけたようにそんな自分と環境にも見切りをつけたのは言われなくても分かる。


どうかなるつもりが無いからこそ、前科のある父親の元へ帰ってきた、それだけ。


仲良くなれそうにないからする気もないし、楽しめそうにないから楽しむ気がない。


ただ、色々心配かけた親元に暫くは居よう、そんな子供心で帰ってきただけの咲名。


「なんか楽しそうだと思った事があればすぐに言えよ、俺も手伝う」


「えー、あんたはあんたの夢探し頑張りなよ、カラオケ行ければそれでいいから」


一緒にやったら楽しそう、の次元が限りなく低い。
そんな翼は父親と照樹の本心なんて知らず、純粋に咲名にも何か見つかれば、と思ってのこと。


「だって親父のことは信用してねーだろ?俺だってしてねーもんな」


「あんたはあれきっかけで芽が出たんだから信じてあげなよ、そこは!」


どんまい親父!と手を叩いて笑う咲名、信用してない事をまず否定してくれと泣き真似をする父にべぇっと舌を出す。


「楽しいの先にみんなビジネスを持ち出すんだ、大人は。
分かるよ、それだけじゃないけど世の中何かするには形式に当てはめなきゃいけないってことは」


うんうん、と下手に口出しはせず、そんな事をビジネスにしてる大人二人は聞き手に回る。


「だから照にぃが言ってたさ、あのー…純粋にファンにそんな姿を見せたいっていう一言、あれはグッときた」


何の話?と聞く翼に、なんか仕事の話してるの聞いてたら言ってたとか。


適当に話す咲名、酔ってるせいで口走らないか心配だけど酔ってるおかげで躱される翼。