「歌ってても楽しくねーよなぁ、中身のない歌。うちのグループのオリジナル曲はなんか甘ったるい歌詞多いけど、きゅーんってするぞ」


「いい歳の成人男性がきゅーんってやばい、聞きたいそれ」


そんな事言うもんだから鼻歌で軽く歌う翼、完全酔っぱらいだし咲名が嬉しそうで翼も嬉しい。


照樹も社長も微笑ましくそんな二人を見てる。


「翼とカラオケ行こ、絶対楽しい」


「バックダンサーやってやるよ」


「交代でね、私の踊れる曲練習しといて」


微笑ましく見てるけれど、さっきの。


お前のおかげで売れたと思われたくない、というのは初耳で。


きっとあの伝説の日がきっかけだろうって。


こうして楽しもうと、楽しいことをしたがる咲名、それでも表には立ちたがらないのは楽しそうと思えないからで。


幼い時からそういうスタンスではいたけど、バンドを組んだ時はそれなりに熱が入ってたのに。


それすら楽しめなくなったのかと、無理にやらせる事はしたくない周りの大人はこの才能を無駄にもさせたくなくて。


何とかして、咲名の中の《楽しい》を目覚めさせたくて。


純粋に夢を探し、楽しいと語る翼とか。
それを形として見せるLIBERAとか。


楽しむ同世代のそばにおいて、そして。


咲名が目指すところがどこであっても、同じではなくても。


力にはなれなくても、きっかけになるといいな、なんて。


実の父親に嫉妬しながらも、あんたはもっと長生きして。
その手で咲名を引っ張りあげてほしかったと。


自分が今も出来ない事を願って、叶わずに終わってしまった。


咲名がとにかく愛してやまなかったのは。


ハードなロックバンドが奏でたあの、優しいメロディ。


自分が愛した女性を他の男が想って作られた曲。


音源化されず、今ではもう。


そのメロディを愛した人達の中でしか流れることのない。


二度と同じ音は鳴らせない、《幻の曲》。