「………という事だ」


『あー…、よく分かんないんだけど?』


数日前俺に任せろと豪語した張本人はさっそく行動に出る。


「いやだから」


『私今イギリスだよ?帰ってこいって簡単に言うけどさ』


「元々行ったりきたりじゃん」


『まぁ…でも日本でやることないんだけど』


「あるよ、んでそっちであるみたいな言い方すんなよ」


『無くもないよ、遺された物が多いからね、…って言っても整理は終わったし、ちょっと名残惜しいだけっていうか』


やっぱりな、と電話の向こうで濁す相手に確信を突き付ける。


「お前はさ、何かやってないと落ち着かないタイプだろ?昔から色々興味持ったことは片っ端からやってみないと気が済まなくて。こっちにいた時にやり残した事だってあるはずだけど?」


『いややり切ったって言うか、』


「言ってみろよ、金は何に使ってどうなって……


辞めた理由はなんなんだよ」


クッと飲み込む音だけが返ってくる。
ここで引き下がったらまた誤魔化されるだけだと畳み掛けるように続けた。


「もう一度言う、帰ってこい、俺の仕事を手伝え。お前には父親が《二人》もいるんだ、普通は一人だけどお前は二人、人の倍愛されてるお前は」


『幸せ者だよね?』


んなこたァ分かってるよ、なんて笑いながら答えた様子は少し前の明るさを取り戻したようで懐かしくて。
しっかりと父親譲りの独特な間合い。


「そうだ、だがお前の《父ちゃん》も《兄貴》も人一倍寂しそうだ、理由は分かるな?」


『…まぁ。私のせいってのも分かってる』


「ここでもっと時間を開けてみろ、ここ数年ろくに会ってもなかった可愛いお前が突然イギリスに行ったと思ったら帰ってこなくて。


俺の苦労も分かるな?そして時間が経てば経つほどあの二人がどうなるか、な?」