自由に羽ばたくキミが

中のシャツは長袖だし、五分丈もあれば絶対見えないからいいけど。


透けてんな、ってわざと布を引っ付けて透かしてくる照樹、咲名の肩から二の腕にかけてのタトゥー。
顔はしっかり痛々しいものを見た様にしかめる。


偏見とかではなく二人とも可愛い咲名が痛い思いをした事が耐え難いだけ。


今どきそんなの珍しくもない、というのが本音。
増えるといけないから黙っとくけど。


あと変な目で見られないためにも隠しておいて欲しいだけ。
理解がある人間がどれだけいるかなんて分からない。


ト音記号をトライバルで少し崩して、トゲのある薔薇が巻き付いた絵柄。


「薔薇はあのバンドの象徴だもんなァ」


「そーよ、許可が降りるなら反対側の腕にはお城か星を入れるけど」


「「ダメだ、増やすなよ」」


父親に縁《ゆかり》のあるものらしい薔薇、深紅で小ぶりなのに目を惹く美しさ。
お城か星なんて言って、社長への父親としての想いも身体に刻める程だと遠回しに伝える。


これを見た母親はただ一度平手打ちを喰らわせた後、何も言っては来なかった。


あの伝説の日にはまだ筋彫りしか終わってなかったし半袖から覗く部分しか見えてなかったから。
目印的に言えばせめてもの救い、何が描かれているかはほとんど分からなかった。


「パパも同じくらい痛々しく見てたけど、クール!って言ってくれたから。女の人のタトゥーは向こうでも珍しいんだけどね」


まぁ、消えないんだし。
今さらなんか言われたってどうしようもない。


それに。


「一生モノ、それがいいのよ。一生消えない唯一とも思える。」


私の宝物、と笑った顔は晴れやかで。タトゥーもそんな笑顔もよく似合ってしまうから、入れた理由なんて今さらどうでもいいし仕方ないって。


説得力だけはある咲名の行動力に、結局いつも黙らされてしまう周りの大人。


さぁ行くか、と先に社長と事務所を出た咲名。
照樹は翼を呼び出して、何時に終わるか確認したあと。


「いつもの店集合な」


「はいよー」


廊下に出てからしたやり取りには普段通りのラフさが出る翼。