自由に羽ばたくキミが

「今日はレッスン場を回るのと…研修生用の事務所の案内っすね」


「アフタヌーンティーの時間だろ、大丈夫か?」


「ふふ、大丈夫です」


「現場は休憩が不規則だからその習慣は早く抜けるといいんだが」


「規則的な組織に所属した事もないから平気、です」


社長には笑みを、照樹にはラフな雰囲気を出したところでギリギリ敬語を保てた、けれどなによりこれに慣れなければと気を引きしめる。


「歓迎会はどうします?」


その場から立ち去りかけた照樹に、中田が駆け寄る。


「お構いなく」


「…まぁ、内々で済ませるか」


「それは是非僕も誘って下さいね」


と、小声でそれならそれで、と賛同しつつちゃっかり参加の中田。


大袈裟なものでなければ…あの三人がいなければなんでもいい咲名、中田の人懐っこさに尊敬さえする。


「あぁ、分かってる、じゃああと頼んます」


中田の肩にぽん、と手を置き軽い敬語で別れる照樹、やっぱり歳で言えば中田の方が上なんだろうか。


「歳上?あの人」


「ん、歳上だけどこの会社では俺が先輩」


「先輩だし上司なのね」


「上司であっても、ベテラン勢からは構わず怒声を飛ばされる事もあるし現場上がりだから、俺」


意外と体育会系なのよー、と言うのも、すれ違う人の中にはおう、とかよっ!とか簡単な挨拶で済ませる人がいたから納得。


「まず俺が社長でありながら叱られることもあるからなァ、社長の親族で重役だからって関係ねえんだ」


「社長の無茶振りが過ぎると、お叱りを受ける」


現場からな、と苦笑い。


照樹が社長に物申す姿も見てきたから、ここではあまり…男性社員に限ってかもだけど。


社長の娘ってのも気にし過ぎなくていいかもなぁ、なんて。


「ちなみにさっきさっさと出て行った人は俺の先輩、いつまで経っても頭上がんねーし、スーツもしっかり文句言われた」


「仲良くなれそうな唯一の女性かもしれない」


そうだな、酒も強いぞって。
言ってる横顔が愛おしげなのは黙っておいた咲名。