自由に羽ばたくキミが

この場でうるせーなやりたくてやってんじゃねーよ、とか。


もう帰る!とどこかへ行ってしまうかもとヒヤヒヤしていたのに。


聞き流せそうな嫌味にもその都度しっかり答えた上に自分から頭を下げるなんて。
もっと言えば、海外が長いと自ら言うなんて。


でも顔を見れば分かる、これは完全に見区切った様子。


少なくともこの女達には、もうどう思われてもいいしその分どうでもいいとすら思ってるはず。


機嫌とって仲良くするようなやつじゃない、つまり。


既に打解ける気がこの数分で無くなったという事。


昔からいじめられっ子だったのは多分、母親譲りのこの気の強さのせいであって。


その分身内からするとその危うさや、か弱い部分もある事を知ってる事で放っておけない、同情とはまた少し違う何かがある。


逆撫でしたくない照樹、一つ咳払いして、同じくこの空気の重さを必死に耐えてる他の社員に目配せ。


「か、海外が長いなら、今後頼れますね!」


「海外進出とかな!なんかの撮影で行く事もあると思うし、そしたら色々お世話になると思うし!」


「留学はどこで?」


自分に話を振られた事には気付いたらしい咲名、遠くに行っていた意識が戻って来てホッとしたのはこの会社のドン。


「イギリス…ロンドン近郊です、親の都合で何年か住んでたので。留学と言えば聞こえはいいですが、懐かしくなってちょっと長く滞在してた、みたいな感じで。」


「仕事もバカンス気分?」


クスクス、嫌な感じはさすがにその他の社員にまで伝わるし、照樹だって面白くはない。


けど強く出てしまえば自分が連れてきた人間を庇ってるとか特別扱いと言われかねない、誰より咲名が嫌がる。


「それは照樹さんに対しても失礼、遊びで人をそばに置く人じゃない。
早速先輩ヅラするんじゃーないよ」


あはは!と笑いながらだから、少しばかり空気は軽くなったけど。


バシッと指摘してくれたのはスーツをきちっと着て、なんか仕事が出来そうな爽やかな青年。