自由に羽ばたくキミが

とりあえず、現場で顔を合わせそうな人間をその場で声掛けして集めた会議室。


二人の背中に隠れたイモ娘、何万人の前が平気で何故今が無理なんだ、とは口が裂けても言えないけど。


目が合えば微笑むのが日常のイギリスの習慣が馴染んでいても人の目を見られないのは完全にダサ過ぎるから。


「海外に留学してた俺の知り合いが帰国したんで、引っ張ってきた。主に俺の下に付けるから現場に出向くことが多いと思う」


日本語喋れない設定で行こうかな、という独り言を聞き逃さなかった照樹、留学してたと簡単に伝えてしまう。


「…初めまして、久利生咲名です」


「俺の娘の友人で息子とも顔見知りの同級生だ、何度か会った事があるが人見知りで口下手だな?何かあればサポートしてやって欲しいが、基本なんでもやれる子…らしいから」


色々教えてやってくれ、と社長自ら出向いて連れてきたにしては雑な説明。


「あの、配属は現場ですか?テルさんみたいに経営に回ったりは…」


「修行を積むとかじゃないのか?」


「現場って、じゃあ彼らの?本格始動で人員増量?」


色んな発言を、一言で片付けたのは照樹。


「経営側ではない、完全現場人員だ。今日は俺の手違いでその…こんな感じだけど」


それを聞いてプッと吹き出して笑ったのは、腕を組みながら聞いていた咲名や照樹より少し歳の上っぽいキャリアウーマン風の人。


「今朝のスーツ、そういう事」


気の毒に、とニコッとした後は一人、会議室を出てしまう。


「アレは気にしなくていい、素っ気なく見えるけど頼れる姉貴だと思え」


小声で教わり、頷くだけで答える咲名。


「現場って言っても、もう私達がいるんですけどー?」


「そうですー、ヘアメイク、スタイリスト、そのサポートとか身の回りのお世話役は足りてまーす」


猫撫で声が聞こえたと思ったら。
あれか、とすぐに状況を把握した咲名は何が言いたいのかは分かったけれど。


自分も現場の人間としか聞かされてないから、どう対抗していいのかも分からない。