自由に羽ばたくキミが

「パスは?ないんですね?どうやってここまで?」


「自分の足で、歩いてですけど」


屁理屈で返すしかない、もうヤケだと手に持ったまま火をつけずにいたタバコをしまった。


「…誰だお前」


「あんたこそ」


知らないのはお互い様じゃん、なに急に誰だお前なんて、不躾な。


なんて言えないのは、まともな受け答えを一つも出来ない自分のせい。


「待て、どこに行く?」


「迎えが来たから、失礼します」


走って逃げようかなって思ったところで、ドアの向こうに照樹の姿、携帯片手にこちらに手を振っているから、出てこいという意味だろう。


追いかけようとした相手も照樹が呼んでる姿を見て、本当に来客者だったのかと知ったのと同時に焦りを見せた。


「あ!その…、すみませんでした。一度こういう事があったので」


「いえ、お疲れ様です」


色々、気苦労掛けたことも含めて。
気持ちは分かるから、怒りはしないけど。


熱心な若者だと感心までしてしまった。


「あれ?なんか喋った?」


今の誰?と呑気に聞いてくる照樹。


「分かるわけないじゃん!タレントさんじゃないの?パスはどうした誰だお前って、ビビったわ!」


「悪い、確かに来社パスは首から下げる決まりが…昔追っかけファンが移転前の事務所、不法侵入した事があって。
その時の事もあるから来客があった時はすぐに来客室に通すことになってるし」


「うん知ってる、今言われた」


「誰だお前って言われてなんて返した?」


「あんたそこって」


ぶはっと吹き出す照樹、スタッフだろうし仕方ない、顔見たら謝っとけって。


顔なんて見れてねーわ、と肩にやんわりパンチ。
そのまま謝りながらも社長室に通されて。


背骨が折れるかと思った!と顔を赤くさせる程、強く回された腕。


マジで鼻水垂らしながら…と一企業の社長が娘との再会に大はしゃぎで。


少しの近況報告、そして親子だろうとお世話になりますと、簡単な挨拶を済ませて。


騒がしい父親のせいで、さっきの出来事もすっかり吹っ飛んだ。