自由に羽ばたくキミが

「そうだな、ファンクラブの管理、タレントのスケジュール管理、ミーティング、たまに取材や会見…事務所と呼ばれる業務はだいたいここが受け口になってる」


「タレントもここに来ることが?」


「あるね、レッスン場もあるし、遅い時間まで稽古する時は寝泊まりだってするやつもいる。レッスンで言えばまだあるけど、ここはデビュー組とそのバックに付く研修生が主に使うかな」


「使い分けてんだ、確かにここだけじゃ狭そう」


「テレビ局の近くだったり、劇場の近くだったりな、数ヶ所借りてる。ここならガラの悪さが手伝って若者が踏み込まない、あと都心に比べて土地が安い…まぁ追っかけファンもいるこたぁいるし、近隣への迷惑を考えてもここはそんなに困ることも無い」


そうだね、ショッピングに出かけた若者がこんな所は通らないだろうしって。


タレント目当てで外に人が集まっても、交通の邪魔をしてしまう程人通りもなければ車通りも少ない。


「レッスン場周りもな、一応そういう配慮はしてるから。覚えるまでは道案内するけど」


「裏路地系ね、分かった分かった」


「んで、今社長はここにいるから来たわけだけど。
着替えも済ませろ、合流して今度は違う現場に向かって、最後はお前の主戦場だ」


「もうボスの登場?スーツに着替える?これはダメ?」


「一応な、もう少し現場に慣れてからブーツにしてくれ」


クスクス、そこらの飲み屋に行くんじゃないんだから、イギリスだと仕事着だってこれだとラフ過ぎる事を自覚してるし、遠回しに伝える。


中に入れば電話の鳴った照樹、喫煙所にいてと放置されてしまう。
コーヒーメーカーや自販機もあるしキレイなそこ、居心地は良さそう。


何があってどう過ごせそうか少し物色、けれど一人で不審過ぎるから目立たないように隅に座れば誰かが来た気配。


やべー部外者だって締め出されたらどうしようとか、一瞬思ったけど。


社員オンリーとドアに貼られていたのは見落としていた咲名、客人と言い張ろうとか、そもそもこんな姿の来客があるような会社ではない事さえ思いつかない。