自由に羽ばたくキミが

「さぁ着いたぞ、移転後は初めて来たよな?」


「うん、初めてだしなんかこう…」


「今更辞めたは無しな」


微妙なリアクションの為、念を押すけれど。


「思ってたよりそのー…いい所だね?」


イギリス特有のブラックジョーク、つまり嫌味。


立地的な事で言えば、芸能事務所が連なるような場所じゃなくて。


少しだけ僻地と言うか、ビル街でもなければ繁華街でもない、強いて言うなら。


「住宅街?…ギリオフィス街、なの?」


「これには理由がある、交通の便も悪くは無いし、ほら…少し行けば飲み屋もある」


あるっちゃあるけど、繁華街じゃないわりにあるけど。


「ガラ悪くない?」


ビルの裏通りは少し薄暗い、テナント続きの建物が等間隔で建ってて。
けどやってんの?と聞きたくなるくらい、寂れてもいる。


シャッターにはお馴染みの落書き。


咲名が言いたい事はすごくよく分かる、照樹だって初めは思った。


スーツを着てオフィス街を歩く自分を想像していたのに、裏通りを歩けば酔っ払い、表通りを歩けば犬の散歩やシルバーカーを押したお年寄りが歩いていて。


コンビニと、小さなスーパーがあって。


生活感溢れる土地柄に、些かギャップというものが浮かんでしまう。


「住宅街って言ってもほら、こっちのマンションはウチの社宅で」


マンション?アパートじゃないのか…とは言わない。


部屋数少なくない?鉄骨?中は確かに広そうだけど…とも言わない咲名、言いたい事はとりあえず一度、飲み込む事にした。


「反対側はまぁ倉庫みたいなもん、衣装だったりグッズの在庫だったり、機材だったりな。裏のテナントの上も住居だけどだいたいは店のキャストだったりが住んでるし」


倉庫は見ればわかる。


「移転前の事務所を研修生の管理する場所としてる、俺の持ち場は主にそっち」


「この真ん中のでけー建物がプロダクションの心臓?私もそっちが主になるんだね?」


周りの環境へのフォローや弁明はもういい、とにかく自分の持ち場となるところを教えて欲しいと、話を催促する。