とある国の、とあるフェスでの、とある人気老舗バンドのステージ。


そこに突然現れたのは、異国の少女で。


ゲストボーカルとしての登場ではあるけれど無名も無名、デビューどころかプロダクションの所属すらしていないと、主催者や関係者を困惑させたのだが。


メンバー揃ってゲスト出演がダメならバンドごと出演しないよ、なんてわがままを通し切ってのこと。


大人の事情に有無を言わせない貫禄のベテランバンド、そんな彼らが言い出したのならきっと面白い事になると無理やり納得して、本番を迎えた。


ボーカルからの適当な紹介、《come on!My Angel!》そんな一言で大舞台に放り出された少女に同情さえ覚えたのだけれど。


あどけなさの残るその姿に《歌姫》と称されはしたけど、その姿ときたら。





《勇者》、の方がしっくりくるだろうか。
怖気付いた様子は見せず、気高く観客を見渡して。


ニコリ、楽しげに微笑んだあとただ一言。


「Hello」


たったそれだけで、その声だけで。


ぐっと惹き付けられる何かを感じたオーディエンスはどっと湧いた。


こんがり健康的に焼けた肌、東洋特有の幼さを残した涼し気な目元を強調するようなメイク、西洋特有の彫りの深さに鼻の高さ。


長い手足と女の子の割に高めの身長、ステージ映えは申し分ない。


ボーカルとマイクオフの状態で少しの談笑、そしてワン、ツー...とカウントを刻んだあと。


高らかにシャウトを決め、ネイティブなUKロックを歌い上げて。


全世界にたった一度、その日限りの伝説を残した。


しかしその後誰がどれだけ手を尽くしても、見つかる事はなかった。


ただの気まぐれで世界を震撼させた幻の歌姫は一体。







誰の手に渡るのだろうか。