だから、言えない






「ねぇねぇ、それ何?」
「これ?」
「うん。上を歩いてたら、
音楽が聞こえてきて、
すごく上手だったから、
どこから鳴ってるのか探してたの」
「そんなうまくないけど…」
「君が吹いてたの?」
「うん」
「それ、見せてー」
「いいよ」

そうだ、あの日は父さんに怒られて、
むしゃくしゃしてたから、
自転車に乗って、
少し離れた河の
橋の下でトランペットを
吹いたんだった。

「これって、ラッパ?」
「うん、トランペットっていうよ」
「ふぅん。
さっきの曲、吹いてみて」
「うん、いいよ」

あのとき、何を吹いたっけ?
多分その時ちょうど練習してた
マーチングの曲だったかな?

「うっわぁ!
すっごい!
私、感動した!」
「そんな…
ありがとう」
「ねぇ、名前は?
どこ小なの?」
「村薗優。
西小の五年だよ。
君は?」
「私は、琴香。
北小だよ。三年生」
「ことか、かぁ…
じゃあ、ことちゃんかな?」