「……ひとみ」
あたたかな声音。
父さんじゃない。隣から。
やさしい香りと、いとしい色と。
そして。
「俺からも言わせてくれ」
「かい、う……っ」
あたしの震えた肩をそっと抱き寄せる、たくましい腕。
頭がこつん、と魁運の胸板に当たる。
少し重めの心音が聞こえてきて、あたしの心臓も高鳴った。
「あの……!」
「貴様……」
「ひとみを……娘さんを、俺にください!!」
好き。大好き。
あたしの、神様。
あなたにしかあげたくない。あたしのすべて。
魁運と出会っていなければ、今ごろどうなっていたかな。
想像できないな。
そういう運命になったんだよ。ねぇ?
「ひとみのそばにいたいんです!」
「……っ」
父さんは口をへの字に曲げ、気難しげにしかめる。
魁運の白い髪、お守りのピアス、あたしを抱く手。
それらを順ににらむと、最後にあたしを見つめてきた。
父さん、迷わないで。
信じられないなら託して。
あたし、魁運となら、幸せじゃなくたっていいの。
「もうぜったいにひとみを傷つけない。だから……!」
「娘はやらん。失せろ」
「ちょっと! 魁運にひどいこと言わないで!」
「……坊主、出て行け」
「お、俺は……!」
「1週間後、出直してこい」
「あきらめな……、……へ?」
え、今、なんていった?
「娘は病み上がりなんだ。1週間後、また迎えに来てやれ」
「父さん~~~!!」
「あ、ありがとうございます!!」
「次来るときは、わずらわしい真似はするなよ。わかったな?」
「う、うぃっす!」
「ひとみはさっさと部屋に戻って寝ろ。1週間、部屋から出るな」
今度の「1週間」は、本当に1週間。
ずっと閉じこめられたりしない。
また魁運と一緒にいられるんだ。合法的に。
こんなうれしいことってない!
「…………ひとみ、すまなかったな」
まるで捨て台詞のように言い放ち、父さんは部屋をあとにした。
素直じゃないな。あたしもたいがいだけど。
いいよ。許してあげる。
父さんが先に許してくれたから。
肩の震えがおさまっていき、かすかに熱がくすぶり始めた。



