「なら、家出中は、一緒に学校に通えるな」
「はい!」
「敬語はいい、同い年なんだし。俺、永鳥 魁運」
「あたしは、し」
あ……っぶない。
また口をすべらせるところだった。
苗字は、ヤクザの名称と同じ。
バカ正直に名乗ったらバレてしまう。
これから一緒に暮らすとはいえ、万が一のときは他人を装えるように、ヤクザのことはぜーったいナイショ!
危ない道に一般人を巻きこむわけにはいかない。
父さんたちから、恩人を守るんだ!
「あ、あたしの名前は、佐藤 ひとみ」
学校でもこの苗字で通っている。
佐藤は、父方の祖母の旧名。
全国で一番多い苗字であることから、まぎれるのにちょうどいいんだとか。
ここでもありがたく使わせてもらう。
「ひとみ、な」
「よろしく、魁運! おじ様も、なにとぞよろしくお願いします」
「ああ、よろしく、ひとみちゃん」
橋の上では幸先わるいと嘆いたけれど、そんなことなかった。
人生のすべての運勢をここで使い果たしてしまったような、特別な日になった。
運命は、ここにあった。
「……つうか、親父、なんでここに? 神社は?」
「あ、そうだそうだ。忘れるところだった」
本来の用事を思い出し、おじ様は魁運に何かを渡した。
「神社に落ちてたぞ」
「あ……」
「大事なものだ。失くすんじゃないよ」
「これ、探してたんだ。親父、ありがとな」
魁運は受け取ったものを、早速左耳につけた。
揺れる、ソレは……ピアス?
札のような、お守りのような、赤いものが飾られている。
そこに何かの花の刺繍が縫われていた。
「このようにわが息子は、高校生になってもわたしに世話を焼かれているんだよ、ひとみちゃん」
「おい親父!」
「はは。だからひとみちゃんも、どんと甘えていいんだよ」
金髪を撫でながら、おじ様はほがらかに笑う。
魁運はいやがる素振りを見せつつ、どこかうれしそう。
このあったかい関係に、あたしも今日から入れてもらえるんだ。
「ふつつか者ではありますが、これからお世話になります!」
それは、なんて、幸せなんだろう。



