――ザアア……。
『魁運に憑りついてる幽霊って、もしかして――魁運のお母さん、かも』
やめろ。
――ザアア……!
『その……お、お母さん、みたいな女性が、魁運の首を、こう……絞め』
やめてくれ。
――ザアアッ……!!
『…………ご、ごめんね』
やめろよ。
そんなこと言うな。
言うなよ。
「……言わせて、ごめん」
雨戸がけたたましく振動していた。
うす暗くなった部屋に、すきま風が吹く。
さっき、玄関の扉の音がした。
あいつ、傘、持ってったかな。
雨に濡れる前に帰ってくりゃいいけど。
けど。
今、顔を合わせたら、また冷たい態度をとっちまいそうで。
他人より呪いより、何よりも、怖くてたまんねぇよ。
まともに顔も見れなかった。
たった4文字の声を聞いただけで、いやになった。
すっかり軽くなったと思った体が、心さえ、鉛のかたまりのように重苦しい。
頭ん中、ぐっちゃぐちゃだ。
殴られたときよりずっと痛いし、響いてる。
隣に、ひとみが、いない。
そのことがこんなにも。
「何やってんだ、俺……」
違和感。
喪失感。
重症だ。後遺症があるタイプの。