僕からの溺愛特等席



「さあ、足も大丈夫みたいですし、行きましょうか」


 糸くんは何事も無かったかのように振る舞うものだから、今のはてっきり、幻でも見たのかと疑う。



 放心状態の私を乗せた車は行き先を告げずに進み出した。



糸くんは機嫌よくハンドルを握っている。これはいよいよ私の頭がおかしくなったのかもしれない。



 車が信号で停車すると、私の方を見ては微笑む糸くん。




「夢でも見たのかって顔をしてますけど、現実ですよ」


「私の脳内は筒抜けなのね」




膝の上においたショルダーバッグをぎゅっと抱きしめ肩をすくめる。



 ふと、顔をあげるとその彼のシャツの襟首に糸くずがついているのが見えた。



一度気にとめると取り除くまでうずうずしてしまう性格の私は「ちょっとごめんね」と一声かけてすっと手を伸ばす。