オーストリアで迷子になった時はさぞかし焦った。
一生家には帰れないとまで思って、ある意味で童心に戻った。
そんな時、何故か一番動じなさそうな糸くんが、
息を切らせ、走って、私を見つけてくれた。
海外での迷子は本当にシャレにならない。
糸くんが来てくれた頃には、
知らない場所で他言語の波に呑まれて、こんなに不安な気持ちになるなら、もう外国なんてこりごりだ、
と私はべそをかいていた。
そして、ぐすんぐすんと鼻をすすり、糸くんに手を引っ張られながら歩いた。
「僕が泣かせたみたいに見えるから、涙止めてください」と困らせてもいたな。
そして、少し落ち着くために、二人で近くの喫茶店へ入った。
まさにその時に飲んだウィンナー・コーヒーと瓜二つだ。
「あれ、違った?」
それともウィンナー・コーヒーって大体こんな味なんだろうか。
糸くんは意外そうな顔で私を見た。
「いえ。よく分かりましたね。凄いです。
野間さんちょっと、鈍感そうだから、まかさ気づくとは思わなかったです」
「褒めてんの、貶してんの。一体どっちなのよ」
「揺さぶってるんです」
私を揺さぶっても何も出ないのになあ。なんて、考える。
糸くんはそこで、お会計をしに行った。
どうやら二組とも帰ったよったようで、残ったお客は私一人になっていた。



