僕からの溺愛特等席




「覚えてますか、初めてウィンナー・コーヒーを飲んだ時のこと」



 カウンターの向こう側に戻った糸くんが静かな物言いで尋ねる。

ああ。あれは忘れもしない。もう、思い出すだけでも鳥肌が立ってくるトラウマレベルの出来事だった。



「覚えてるよ。あれは、ミス研でオーストリアに行った時だ」



「そうそう。野間さんが迷子になった時です」


「そうだけどさあ」


本当に帰れなくなると思って、頭が真っ白になったんだから、と私は不服を申し立てる。



「何ですか?」




「………その覚え方やめてよ。恥ずかしいから」


私は頬を膨らませ、そっぽを向いた。



 もう一口、コーヒーを飲むと、記憶の欠片がザッピングする。 あれ? と思った。



「そう言えば、このウィンナー・コーヒーってその時に飲んだのと似てる気がする」


なんとなくだけど。


迷子の味がする!