「野間さん、帰りますよ。立てますか?」
頭を振ると、ズキっと痛みが走った。
「………はあ、後で知っても怒らないでくださいね」
そう言うと、私の身体がふわっと持ち上がった。
俗に言うお姫様抱っこだ。
居酒屋の温度もいくらか高くなった気がして、
本当の意味でこれを理解した時、私は酷く羞恥心に駆られるだろう。
「どこ行くの糸くん……」
「家に帰るんですよ」
私は落ちないように糸くんの首にぎゅっとしがみついて、うとうとする。
シャツの襟のあたりに鼻を寄せて、すんすんと匂いを嗅いでいると、上からため息が聞こえてきた。
「この酔っぱらいは、ほんとに何も分かってないな」
「……分かってるよー。送ってくれるんでしょ」
「朝になって、野間さんが慌てる姿が容易く想像できる」
糸くんが、そんな事を言ってるのをよそに、ゆらゆらと揺られて、
揺りかごに乗っているみたいな気分でとても心地よい。
「来てくれて、ありがとう……」
困った時、必ずそばにいるのは糸くんで、私はそれに甘えてしまう。
「やさしいねえー糸くん」
ホント糸くんは、ヒーローみたいだ。ピンチな時には必ず駆けつけてくれる。
彼はみんなのヒーロー?
それとも……。



