しばらくするとガラガラと店の扉が空いた。
「あ、先程の電話の方ですか?」
佐原さんが言った。
「ええ。野間さんは………」
これは聞いたことのある、落ち着いた低音。
ガラスのような繊細な声。
ああ、糸くんか。
いや、でもなんでここにいるんだろう。今、私は寝ているのだろうか。
これは夢かな?
「どれだけ飲んだら、そんなになるんですか」
糸くんは私の傍に、ため息と一緒にしゃがんだ。
ほのかにコーヒーの香りがする。
この香り、落ち着く。鼻をよせて、香りの原因を求める。
「全く、しょうがない人だなあ」
「すみません。私が三春ちゃんを誘ったから……」
華ちゃんが謝ったが、糸くんは何も答えずにじっと私を見つめた。
私がただ飲みすぎただけなのに、ごめんね華ちゃん。
心では反省するが、声にはならない。明日、華ちゃんに謝ろう。



