「あ、でも大丈夫ですよ。いつもの席は空いてますので。どうぞ」
糸くんはカウンターを指した。
どの席も誰かしらが座って、ゆっくりと食事をしている。
そこにポツリと空いた席は、主を待つようにひっそりと椅子が佇んでいた。
私はちょっぴり嬉しくなって、今日はやっぱり来てよかったと頷く。
「ラッキーだね」
私は、ほくほくした顔で糸くんを見た。
「………まあ、僕が用意したラッキーなんですけどね」
糸くんが何か言った。
しかし、今日のお店は賑わっていて。
囁かなBGMも、糸くんの言葉も、お客さんの話し声に溶けてしまって聞こえない。
なんて言ったんだろう、と首を傾げたが、
私は特に聞き返すことも無く、いつもの席に座って、メニューを広げた。
視界の隅では糸くんが忙しくカウンターとフロアを行ったり来たりしていた。
やはり、満席になると、一人で料理を作って、提供するのは大変だろう。
アルバイトを雇わないのには何か理由があるのだろうか。
ふとした疑問を心に留めつつ、再びメインメニューのページにん視線を落とす。



