僕からの溺愛特等席




 人は大きくわけて二種類の原因で忘れるものだ。


ひとつは、たいして必要のない出来事。



そしてもうひとつは、あまりのショックで思い出すのも億劫な出来事だ。



今回の場合は後者だ。
僕は、ほぼ初対面の野間さんにとんでもない事を口走った。




「恋人はいますか」




普段の僕だったら言わない台詞をはっきりと、よどみなく口にしていた。




言ってから気づいたのだけれど、僕は意識下で野間さんに恋人がいるかどうか、余程気にしていたようだ。



 案の定、野間さんはぽかんと口を開けていた。
僕がなんでそんな事を聞くのか、そもそも僕のことを知らない可能性だってあった。




人と話すことが、面倒くさくて喋ることに意味を見いだせなかった僕はサークルでも一人浮いていた。



というか、沈んでいたと言った方がいいだろう。
だから、野間さんに認知されているかも怪しかった。