下の階から、チャイムが聞こえた。
「誰が、来たのかな」
と私は肩をすくめて、階段の方に視線を向ける。
「すみません、ちょっと見てきます」と糸くんは私にことわって一階へ降りていった。
待つ間に本棚に並んだ小説の中からひとつ引き抜いてあらすじを読む。
どれもこれも面白そうで、なかなか中身に入れずに三分、五分、戻ってくる気配がない糸くんを待った。
話し込んでいるのだろうか。
心なしか下の階が聞き覚えのある声がした。
無関係の私が出しゃばるのもどうかと思ったけれど、好奇心が勝って私も恐る恐る階段を降りた。
向こうから見えるか見えないかの瀬戸際で足を止めた。こちらに背を向けて話し込んでいる糸くん。
その向こうに旭さんの姿が見えた。
「あ、三春さん」
旭さんと目が合ってしまった。その声で糸くんもこちらを向いて
「出てきちゃったんですか」と苦笑いをする。
糸くんの向かい側には、黒髪の清楚な女の人が、私を不思議そうに見ていた。
逃げ去ることも出来ずにおずおずと下に降りてきた私に「初めまして」とふんわりした微笑みで彼女は名乗った。
皆川 優美といいます。



