1週間後、保護者の前でアンサンブルコンテストのプレ発表会が行われた。

なかなか会場まで足を運べない保護者に活動の成果を見てもらうのと同時に、私たちのリハーサルでもある。

審査員の代わりに保護者に見てもらうことで、度胸をつけて本番で少しでも緊張しないようにする。

っていうか、いくら練習しても、リハーサルをしても、緊張する子はするんだけどね。

それでも、緊張した上で、いかに普段通りの演奏ができるか…というのも大切だと思う。

私たちは、3人とも発表会やコンクールに慣れてるので、ほとんど緊張することなく、演奏できた。

先輩方の演奏は、やはり皆さんとても上手だった。

特に茜先輩のいる7人編成のベルガマスク組曲と奏先輩のいるバリ・チューバ四重奏は思わず聞き惚れて涙しそうになる程、素晴らしかった。


発表会終了後、片付けをしてると、奏先輩に呼び止められた。

「森宮、今日の演奏、良かったぞ。
オーボエは一番難しい楽器なのに、半年で
よくここまで吹けるようになったな。」

奏先輩はそう言って、また私の頭をくしゃくしゃと撫で回す。

両手に譜面台を抱えた私は、身動きが取れなくてされるがまま。

「あ、ありがとうございます。」

私が頭をぺこりと下げてお礼を言うと、

「ははっ
悪い、森宮の頭、ボサボサにしちゃった。」

と奏先輩は両手で私の髪を頭に撫で付けた。

「もう! 奏先輩、やめてくださいよ〜。」

私が頬を膨らませると、奏先輩、今度はその頬を人差し指でツンと突ついて潰した。

「ほんと、森宮はいつ見ても飽きないなぁ。
頭ボサボサにしたお詫びに、それ、半分
持ってやるよ。」

と奏先輩が右手を出す。

だから、私は言ってあげた。

「先輩、そうやって大変な仕事から
逃げないでください!
力自慢の奏先輩のために、ちゃんとビブラ
残してきましたから。」

「あーあ、譜面台運んで終わりたかった
のになぁ。」

奏先輩は、残念そうにうなだれてビブラを運びに行った。

ビブラというのは、ビブラフォンのこと。

鉄琴の一種で、電気でビブラートをかけられるようになっているので、ものすごく重い。

男子部員に一番運んでほしい楽器のひとつ。

譜面台も金属製なので、一度にたくさん持てば、翌日、腕が筋肉痛になるほど重いが、ビブラに比べれば、まだマシだと思う。