「未来は賢いね。頭のおかしい両親から離れて、今までしてきたことも全部亜美に擦り付けてさ」

力が抜けたように地面にしゃがみこむ私を、まつりは見下ろすように見ていた。


「しかも私を呼び出したのはあの子じゃないから、未来はなにも失わない。怖いねー。全部計算だったのかな?」

ケタケタと笑うまつりに、私は詰め寄った。


「……も、して。元に戻して」

そうだ。望みどおりにならないのなら、戻せばいい。


「あれ? 自分の人生を未来にあげて後悔しないって言い切ったじゃない」

「それは……」

「ねえ、亜美。未来になれて幸せでしょ? 広い家もお金も優しい両親だっている。普通以上の生活を求めたのは亜美でしょ?」

「違う。違ったの。私は私の家族がいい! 妹たちの面倒も嫌がらないし、お母さんのことも大事にする。私は高橋未来じゃない。高橋亜美なの!」

「はは。未来のものを全部手に入れたって思ってたのに、手に入れたのは未来だったね」

まつりはそう言って、消えていく。


「まんまと盗まれちゃったね。高橋亜美の人生を」


「ま、待って。やだ。行かないで……!」

私の声はもうまつりには届かない。


まつりは私を元に戻さないまま消えてしまった。

私はどうすることもできずに、いつまでも叫ぶように泣くだけだった――。