誰だって心に悪魔を飼っている。


「今日はこれしか持って来れなかったよ」

雨上がりの河川敷。薄暗い高架下も湿っていたけれど雨の影響はほとんどなかった。


「ワンッ!」

小さな段ボールの中から白い犬が顔を出した。


私の顔を見るなり嬉しそうに尻尾を振ってくれた。

抱き上げて頭を撫でたあと、私は家から持ってきた食パンをちぎってあげる。よほどお腹がすいていたのかシロはすぐに食べてくれた。


この場所でシロを発見したのは二か月前のこと。

まだ生まれたばかりだというのに誰かが無責任に捨てたせいでシロはこの段ボールの中で震えていた。

それから私は毎日のように様子を見に来るようになり、牛乳やパンをあげるのが日課になっていた。


「ごめんね。うちで飼えたらいいんだけど……」

親が動物嫌いということもあるけれど、うちのマンションはペット禁止なのでシロを飼うことはできない。


「シロ。今日も学校行きたくないよ」

「……クン」

「慰めてくれるの? 優しいね」

ひとりぼっちだったシロに手を差し伸べたのは私だけど、今は私のほうがシロに助けられている。


「じゃあ、また来るからね」

シロをぎゅっとしたあとに、私は重たい足取りで学校に向かった。