「良かったね。自分の思いどおりの姿になって」
呆然と立ち尽くしていると、まつりが笑顔で話しかけてきた。
「まつり。みんな私に気づかないよ」
「うん。だって、桜はもう桜の顔じゃないもん」
そう言って、まつりは手鏡を見せてきた。
そこに映っていたのは、自分じゃない他人の顔。
山中桜だった頃の面影なんて一ミリも残っていなくて、年齢さえ高校生には見えなかった。
「桜が願ったんだよ。可愛くいること以外なにもいらないと、ね」
まつりが不敵に笑った。
「待って。いらないってそういう意味じゃないよ。だってみんなが私のことを分からなかったら、これからどうすればいいの?」
「知らない。私は桜の願いを叶えただけだもん」
そう言って、まつりの姿がどんどん消えていく。
「まだ私の傍にいてよ! まつりまでいなくなったら私は……」
「平気だよ。お気に入りの可愛い顔があるでしょ?」
「……っ」
そのあと、まつりは私の瞳から消え去った。
それからのことはあまり語りたくない。
ただ街中で【この子を探しています】という貼り紙を見かけた。
身長、背格好、顔の特徴など詳しく書かれていたけれど、きっと見つかることはないだろう。
巡回中のパトカーが私の横を通りすぎる。
可愛くいることを追求した結果、私に残ったのは……。
自分ではない容姿だけだった――。