「みんなの弁当、可愛いね」
すると、友達と歩いていた翼くんが私たちの横を通りかかった。
翼くんが現れたことで急に女子たちはそわそわとしはじめて、声のトーンも自然に高くなる。
「わ、翼くん。あ、これ食べてもいいよ。作りすぎちゃったから」
「私、フルーツ持ってきたよ!」
みんなが露骨にアピールする中で、涼香だけが後ろに隠れて声すら出せずにいた。
「涼香、翼くんと話さなくていいの?」
「話したいけど、恥ずかしい……」
涼香は照れたように顔が赤くなっている。
ここぞとばかり翼くんと仲良くなろうとする女子とは違って、涼香はいつも控えめだ。
けれど涼香が誰よりも女の子らしいことを私は知っている。
お弁当だって動物のピックが付けられていたり、休み時間ごとに手鏡を見て化粧チェックをしていたりする。
小柄で顔も可愛いけれど、翼くんの前では恥ずかしさでうつ向いていることも多かった。
「山中、これあげるよ」
翼くんは私になにかをくれた。それはラーメンの大盛り券。
みんなはそれを見てやっぱり「いいなー」と言っていたけれど、私の気持ちは複雑だった。
女の子らしくない私でもそれなりに恋心はあって、実はみんなと同じように翼くんに好意を持っていた。
気軽に名前を呼んでくれるのも、友達の輪に入れてくれるのも嬉しいけれど、それは翼くんが私のことを女の子として見ていないからだ。
でも今の関係を壊したくないし、誰かのものになってしまうなら、翼くんはみんなのものというルールのように、誰のものにならないほうがいい。



