「この道路からこっち側は、凪の通っている南小なのよ」
学区域っていうのが決まっているからね、と
母さんに説明されて、幼い俺はやっと納得した。
同時に、こんなにも近いのに、キミが遠くなった気がした。
「わぁ! 涼太すごい! もう自転車に乗れるの!?」
「へへっ。俺は天才だから、小夏より早く乗れたんだぜ!」
学校から帰ると、自転車に跨ったアイツが得意気に自慢していた。
嘘だ。 天才じゃないだろ。
毎日毎日、家の前で練習して、転んだらお父さんに泣きついてたのを俺は知ってる。
その証拠に、膝や腕は絆創膏だらけだ。
「わー! 涼太カッコいい! 今度私にも教えて!」
「お、おう! 小夏は補助輪っていうのをつけて練習だからな!」
「えー!? それ、恥ずかしい……」
「大丈夫だよ! 俺が教えてやるから、すぐに乗れるようになるぞ!」
「じゃあ、頑張る! えへへ」
その笑顔はいつだって、
アイツだけのものだった。



