「あれ、今年は逃げなくていいのかな?」
私の二の腕を掴んだ手がぶるぶると震えている。
地面に縫い付けられたように動けずにいると、剣崎の視線が私に降りてきた。
「……そうか。キミはあの時、気絶しちゃったから、なーんにも知らないんだね?」
剣崎が三日月のように目を細くした。
ドクリと心臓が嫌な音をたてる。
「ねぇ。本当のこと、話してあげなくていいのかな?」
………本当の、こと?
涼太は口を閉ざしたまま私の前に立った。
「あれー? 聞いてる? もしかして、お前耳が壊れてんのかな?」
背の高い剣崎が涼太の顔を下からすくい上げるように覗き込むと、涼太は大袈裟なほど身体を震わせた。
「頼む……もう、許してほしい………」
蚊の鳴くような声を放っても、剣崎はケタケタと笑っている。



