鷹村ベーカリーを立ち去り、私と白坂くんは神社の方へと向かって歩いていた。
「怖い?」
「えっ……」
白坂くんがおもむろに立ち止まった。
「さっきから、手に力が入ってるよね」
あっ……。
いつの間にか、白坂くんと繋いだ手が強ばっていた。
だけど、怖くないと言えばそれはただの強がりだった。
「今日だけは、せめて……白坂くんと楽しい思い出にしたくて……」
それなのに、頭の片隅にはあの男──剣崎の顔がこびりついて消えない。
「でも……どうしても思い出しちゃって。涼太と来た最後の夏祭りの夜が……」
眉を下げて私を見つめる白坂くんに、去年の夏祭りの出来事を打ち明けた。
凪いだ海のように、白坂くんはただただ私の話に静かに耳を傾けてくれていた。



