「ここを抜けたら俺の家の通りに出れる」
「近道……ってこと?」
「前から雅と使ってたルートだ。それにここは出口が3つある。水瀬は安心していい」
白坂くんの後ろに続くように、廃ビルの中へと踏み込む。
暑さに晒されていたせいか、明かりのないこの空間がやたら涼しく感じた。
床のタイルは所々ひび割れており、窓ガラスもないせいか、ほこりっぽい。
昔はどこかの会社として使われていたのか、古いデスクや椅子が横倒しになっていた。
私と白坂くんの足音だけが反響している。
何度もここを通って逃げてきたのかな……。
白坂くんは知り尽くしたように進むから。
「このドアを出たらまた走ると思う。水瀬、走れるか?」
「……頑張る」
「それとも、俺が水瀬を抱っこしてくか?」
こんな緊急事態に何を言ってるの!?
私は頭を振って全力で否定した。
「じゃあ、抱きかかえるのはベットに連れてく時だけだね?」
「もう……っ!!」
照れてる場合じゃない。
私は白坂くんの手を強く握る。
怖くても、白坂くんがいるから。
今にも外れそうな錆びたドアノブを、白坂くんが捻った。



