「お前がいなかったら、きっと俺の理性なんて働いてないな。今頃こいつの意識ぶっ飛んでる」
白坂くんは私を見据えると、顎先を滴る汗を拭った。
「行くよ、水瀬」
男から身体を起こし、白坂くんがいつものような表情を見せて私の手をとる。
「こっ、この人は……どうするの? また追いかけてくるかもしれない……」
「倒しといていいよ。たぶん起き上がれないから」
私が小声で問いかけると白坂くんが不敵に笑った。
その意味はあえて聞かないけれど、背中を強く打ったのか、大の字のまま呻いていた。
「お。ここの鍵まだ空いてんのか」
「ちょっ、白坂くん……っ、こんなところ、勝手に入って平気なの!?」
走った先にあったのは朽ちた廃ビルだ。
裏口のような扉の鍵は空いており、中へと侵入した。



