やがて患者の治療が落ち着いた頃。

軽く夜食をとった後にテントの外へ出ると、草原に腰を下ろし焚き火の番をする陛下の姿が見えた。上着を肩にかけている。

シャツをまくった腕には包帯が巻かれており、どうやら自分で手当てをしたらしい。


「レウル様」


思わず駆け寄って名前を呼ぶと、こちらへ視線が向けられた。目が合うなり、わずかに表情が緩まる。

今、少しだけ気を抜いてくれた?

そんな仕草さえ心が温かく感じ、おずおずと隣へ座る。


「ここにいてもいいですか?」

「俺は大丈夫だけど、ランシュアは?」

「夜間は交代で患者さんをみているので、今日は休んでいいと言われました」

「そうか。じゃあ、君が眠くなるまで少し話そう」


ふたりで話すのは久しぶりだ。

城を出てからはお互い目の前のことに精一杯で、会話は数秒程度で終わっていた。パチパチと焚き火の音だけが耳に届く中、心配して尋ねる。


「腕の傷は大丈夫ですか?」

「あぁ、問題ないよ。血も止まったし、本当にかすり傷だから」


穏やかに答えたレウル様は、わずかに目を細めた。


「ランシュアこそ、体調は平気か?テントで寝るなんて初めてだろう?ちゃんと眠れているか?」

「はい。覚悟を決めてここに来たので、なにも苦ではありません」