「…あ。売り切れか」



男は残念そうに自販機を見つめている。




売り切れって…

もしかしてミルクティー?




自販機に視線を移すと、売り切れているのはミルクティーだけ。


ってことは、この人ミルクティー飲みたかったのかな?




たかがミルクティーが売り切れてるだけで、そんなにガッカリしなくてもいいのに。




変な男。





そう思ったけど、あまりにしょんぼりしているこの男が可笑しくて、私は笑ってしまった。




「…ふふっ。そんなにミルクティー飲みたかったんですか?」

「え?」



私の存在に気付いていなかったのか、男は驚いた顔で私を見た。




「…あぁ、はい。俺、炭酸も珈琲も飲めないからミルクティーしか飲めないんですよ」



今時珍しい男だな。




「じゃあお茶飲めばいいじゃない」

「お茶って味気ないじゃないですか」



まぁ…確かにそうだけど。

ワガママな男だなぁ。




私は仕方なく好き嫌いの激しいこの男に、先程のミルクティーを差し出した。




「タブは開けちゃったけど口は付けてないんで、よかったらどうぞ」

「え?いんすか!?」

「私は炭酸も珈琲も飲めるから」

「ありがとう!あんた、いい女だ!!」



嫌味を言ったつもりなのに、心から感謝されてしまった。


何か調子狂うなぁ。




私は珈琲を購入すると、ペコペコと頭を下げている男を軽くあしらって講義室に戻った。




「遅かったわね、メイサ」

「牛乳紅茶男に捕まっちゃってね」

「牛乳紅茶男!?何、それ」



ミルクティーしか飲めない男の名前。




もう会う事はないであろう、変な男。


私はあの男の事なんてすぐに忘れ、講義が終わるとバイトへと向かった。




前ほどシフトを詰め込んではいないけど、私は暇を持て余すくらいなら働いていたかった。



少しでも時間に余裕が出来てしまうと、礼羽の事を考えてしまうから…。


私はそれが嫌だった。