もう誰かを愛せはしない

「話してもいいけど1つ約束して?…俺から離れたりしないって」


「当たり前じゃない。過去のライハがどうだろうと、私は今のライハが好きなんだもん。離れたりなんかしないよ」



礼羽はホッとしたように息を吐くと、私の両手を掴みながら話し始めた。




「俺さ、大切な人が死んだから医者になろうと思ったって言ったじゃん?」

「うん。友達だったんでしょ?」

「そう言ったけど実はそれ、嘘なんだ」



嘘?



友達が亡くなったのが嘘?

それとも亡くなったのが友達っていうのが嘘?




「死んだのはユウキ。俺の元カノなんだ」



そう聞いた瞬間、ズキッと胸が痛んだ。




礼羽の大切な恋人が亡くなってしまった事にもだけど…


礼羽を突き動かしたのが他の女の人だって事がショックだった。




きっと私には、礼羽を突き動かせる程の力はない。

そう思ったから…。





「…ユウキは、じいちゃんちの近くに住んでて俺の幼なじみだったんだ。ユウキがいたから、俺はここにいたかった」



なんでだろう…。

礼羽の顔が見れない。



他の女の話をする礼羽なんか見たくない…。




「でもユウキは、中学3年生になったばかりの頃に白血病が発覚して、若いユウキの病気の進行は、とてつもなく早くて…半年もしない内に呆気なく死んじまったんだよ。

ユウキがいなくなったから、ここにいる意味もなくなった。
だから実家に帰ったんだ」


「そんなに好きだったの?ユウキさんの事」


「あぁ。何たって初恋の人だからな」




礼羽は儚く微笑むと、私の顔を見つめた。





きっと礼羽は…
礼羽の中では…


まだユウキさんが生きている。


礼羽はユウキさんを想ってる。





だって、こんなに優しい顔をしながらユウキさんの事を話すんだもの…