私は礼羽がいることがわかっているかのように、真っ先に屋上に向かった。




「…ライハっ!!」



屋上のドアを開け放つと春の風が吹き込んできた。



その風と共に愛する人の匂いがする。





「メイサ?何でこんな所にいんだよ」

「…私のセリフだよ」



屋上の柵の手すりに肘を乗せて頬杖をついていた礼羽は、私を見て驚いている。



礼羽と私しかいない屋上が何だか懐かしく感じた。





「…高校生の時さ、メイサとよくここにいたよな。何をするワケじゃないのによく飽きずにいれたよな」


「うん。そうだね」



あの頃一緒に見ていた景色とは違う今日の空。




休日だから生徒の声は聞こえないし

私達はもうここの生徒ではない。





屋上から見える大好きな景色は変わってしまったけど

大好きな匂いは変わらない。




「…確かに何をするワケではなかったけど、私はライハがいたから幸せだったよ。…同棲生活もそうだった」



何もなくても
何もしなくても


礼羽がいるだけでよかった。




「俺もだよ、メイサ」



私が礼羽に歩み寄ると、礼羽は手すりから手を離し私に体を向ける。


礼羽の胸元にはあのネックレスが光っていた。




「…ライハ。もう、大丈夫だよ」

「え?」



私はネックレスのリングに触れてから、おじいちゃんに託された手紙を礼羽に差し出した。



この手紙の受け取り主は礼羽だから…。





「手紙?何だよ、これ」

「ライハのおじいちゃんから預かってきたの」

「じぃちゃんが?」



礼羽は不思議に思いながら封筒から便箋を取り出して紙を開いた。



ユウキさんが死んでから止まっていた礼羽の時間が、静かに動き出す。