「……そう。怪我はない?兄さん」


そんな私に朱がほんの一瞬だけ不満そうな表情を見せた。だがそれは本当に一瞬で、すぐにあの愛らしい顔に不安の色を浮かべ私の体をくまなく見る。


「大丈夫だよ。朱は心配性だね」

「当たり前でしょ。たった1人の大切な人だよ。本当は戦っている姿も見たくない。安全な場所にずっといて欲しい。できることなら家から出したくなかった」


不安そうな朱があまりにも可愛らしくてクスリと笑った私だったがどうも朱の様子がおかしい。
あんなにも愛らしい顔からまるで表情が抜け落ちたかのように無表情になり、目から光が消えている。声のトーンもいつもより気持ち低い気がした。

すごく不穏な空気を感じるのだが?
朱ってこんな感じだったっけ?

私の中の朱は今も昔も甘えん坊の弟なのだが、2度目の今では前よりも過保護と心配性が増している気がする。これは気のせいなのだろうか。


「朱。俺はそこまで心配されるほど弱くないし、誰よりも強い自信はあるよ?もちろん朱よりも」

「うん。知ってるよ。兄さんは誰よりも強い」

「それがわかっているのなら、そこまで心配する必要はないでしょ?」

「……うん。そうだね」


朱がどこか泣きそうな顔で私を見つめる。先程とはまた違う表情に私は戸惑った。

なんで?どうして?そんな顔をしているの?
私はただ朱に笑っていて欲しいだけなのに。
私の何が朱を悲しませているの。


「だけど無理はしないでね。僕は兄さんのたった1人の味方だよ。実戦大会でもずっと見守ってる。何かあれば1番に助けに行くから」


朱はそう言い切ると私の右手を両手で包み込み祈るように瞳を閉じた。


「ありがとう、朱」


私はただそんな今にも消えてしまいそうな儚げな朱に小さな声でお礼を言うことしかできなかった。