「…誰かいませんか」

今にも消え入りそうなその言葉が聞こえてやっと、私はドアノブから手を離した。

「何かご用ですか」

私があっけらかんと言葉を返すと、その震え声の主が飛び上がりでもしたかのように、外の扉ががちゃりと揺れた。

そうして更に言葉が続く。

「あの、おばけの方ですか」

「肝試しですか」

「いえ…ええと、如何してお亡くなりになられましたか」

扉越しの言葉を受けながら、これは何らかのハラスメントにはならないのだろうか、と漠然と思った。
本人に死因を聞くのは不躾な気がしたのだ。

「あの、残念ながら、人間です。その話にはいまいち詳しくもない。お役に立てず申し訳ないけれど」

「あ、いや、いいんです。その方が。」

「ご用ですか」

「紙が…欲しくて。ありますか」

「ええ、ありますよ。持っていきますね。」

「助かります」

先程並べた山の上をいくつか手に持った。
扉の前にいたその子は、この春の陽気にも負けずきっちり学ランを着込んでいて、同じ学年証をつけていた。