千景くんは魔法使い



「本当にありがとう」

花壇は見違えるように綺麗になって、花たちも嬉しそうに風に揺られている。

「遠山さんってさ、俺が魔法使いだって知っても変わらないよね」

「え?」

「本当は、いろいろ頼まれたりするのかなって思ってたけど、遠山さんは全然そんな素振りないから、俺のほうがちょっとビックリしてる」

「頼んだほうが……千景くんは嬉しい?」

「ううん。一生懸命な遠山さんを見てるほうが嬉しい」

千景くんが甘い顔で微笑んだ。

ドキドキしすぎて、胸が苦しい。

「それと、さっきから気になってたんだけど……」

千景くんの指先が、私の鼻にちょんっと触れた。

「ここにずっと土がついてる」

「え、う、うそ?」

私はあたふたとうろたえた。

ずっとって、もしかして千景くんが来た時から付いてたのかな?

だとしたら、恥ずかしすぎて穴があったら入りたい気分的だ。

「遠山さんって、可愛いよね」

「……へ?」

「俺も手が汚れてるから、こっちね」

千景くんはそう言って制服の袖で私の鼻を拭いてくれた。

私の鼻が痛くならないような優しい力加減。擦られるたびに、千景くんの匂いがスッと体の中に入ってきた。

「も、もう大丈夫。千景くんの袖が汚れちゃうから」

千景くんから離れようと足を一歩後ろに下げると、逆にグイッと千景くんは前に出てきた。

「汚れてもいいんだよ。だから遠山さんだけは俺のこと普通に扱ってよ。ね?」

〝ね?〟の言い方が、可愛くてズルい。

「は、はい」

私は千景くんに押し負けてしまい、思わず敬語で返事をした。千景くんは満足そうな顔をしていた。