血の気が引いていくのがわかる。


涙も引いて、枯れて、目がかわく。


胃の奥底から何か別のものがこぼれそう。



ほほえみ合うふたりが理解できなかった。

まるで緑色の宇宙人みたい。


……あぁ、気持ち悪い。



――キモチワルイ。キモチワルイ！



これ以上見ていたくなくて。
見ることすら嫌で。


行先もなく逃げ出した。


足取りが重い。上履きの裏側にガムでもひっついてるかのように足裏が引きつる。



カバンを教室に置いたままなことは知っていた。


わたしが戻らなければふたりがずっとあのまま
どこかの宇宙と交信していることも。


それでもいい。

もういい。


なんでもいい。



今のこの気持ちを吐き出したかった。


ひとりで叫びたかった。




目に飛び込んだ『図書室』の文字に、ここでいいやと決めつける。


はあはあ息を切らしながら扉をスライドしてみれば。



「ごめん。俺、好きなやついるから」



――ああもう、ここでもか。



なんでよりにもよって今、めったに利用しないここで告白なんて。


ツイてない。

帰りたい。
……帰れないんだけど。



ふたりがわたしに気づいた。


気まずい。気持ち悪い。……気まずいなあ。



わたしが出て行くよりも、女の子が泣きながら逃げるほうが早かった。


ちょっと、男の子とふたりきりにしないでよ。もっと気まずくなった。



「……本でも借りに来たの？」



え、わたしに聞いてる？
でもほかにいないし、わたし……だよね？


気だるそうなタレ目がこちらを一瞥する。


あ、ほんとにわたしみたい。



「……ちがう」

「ふーん」



興味なさそうなあいづち。いや、実際ないんだろうな。



わしゃわしゃとマッシュの髪を乱す仕草がさまになってる。かわいいとかっこいいの絶妙な保ちぐあいは遺伝なのか才能なのか。


細い髪のすきまから赤らんだ耳たぶが覗く。



へぇー、断ってたけど照れはしたんだ。へぇー？